会長報告:今年次第40回 通算第1273例会

今日は岡崎税務署長の横井勇二様をお呼びして、税に関わるよもやま話をしていただきます。その中でも永年査察の事案に携わってみえた横井署長の面白くて、ビックリな経験話を聞いてみたいなと思います。楽しみにしています。
先々週は上野の国立西洋美術館でカラヴァッジョ展、先週は六本木の国立新美術館でルノワール展を観て来ました。ご存知の方もあるかもしれませんが、少しカラヴァッジョの話をさせてもらいます。次回ルノワールの話をします。彼の名前は、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョといい、1571年にイタリアで生まれ1610年に38歳で没するまで、60点あまりの作品を残しました。
生来の激しい気性から諍いが絶えず、ついには殺人を犯し、逃亡を余儀なくされながら作品を描き続け、波乱万丈の生涯を送った彼は、自分以外の画家を認めず、いわば唯我独尊の世界の人間でした。その象徴的な絵がナルシシズムの語源となったギリシャ神話の美少年を描いた「ナルキッソス(1599年)」です。水面に映った自分に恋をしてしまうというものです。
ナルシシズムとは、自己を愛したり、自己を性的対象とします。健全な一次性のナルシシズムは人格形成期の6ヶ月から6歳でしばしばみられ、発達の分離個体化期において避けられない痛みや恐怖から自己を守るための働きです。
二次性のナルシシズムは病的な状態であって、思春期から成年にみられる、自己への陶酔と執着が他者の排除に至る思考パターンです。二次性ナルシシズムの特徴として、社会的地位や目標の達成により自分の満足と周囲の注目を得ようとすること、自慢すること、他人の感情に鈍感で感情移入が少ないこと、日常生活における自分の役割について過剰に他人に依存することなどがあります。フロイトによれば、誇大妄想、監視妄想、幻聴、重度の鬱、統合失調症などの症状を挙げています。
さて、ナルキッソスはエコーというニンフ(若い女性の精霊)の求愛を拒んだ罰として、水たまりに映った自分の姿に恋するという呪いを受け、彼はどうしても想いを遂げることができないので、やつれ果て水仙(narcissus)の花になってしまったということです。なので水仙が水辺にうつむきがちに垂れるように咲くのはそのためだと言います。ところでこのニンフのエコーは元々お喋りが多かったのでゼウスの神の妻ヘラによって、他人の言葉の最後の部分のみ復唱することしか許されず、こだま(木霊)となってしまったということだそうです。
カラヴァッジョのこの絵には、神話画に必須のアトリビュートと呼ばれる人物を特定する象徴的なものの描写がなされていません。しかしこれは計算された構図で、実像である両腕と水面に映った両腕が丸い円を形作っています。円は閉じられたもの、すなわち完璧さを示し、ナルキッソスが他者を必要とせず自分ひとりで充足していること、自己完結しきっていることの実に見事な象徴表現になっています。
それにしても神話の時代からこうした心の病があったということは、時代、国が変わっても人間の営みや本質は変わらないのだなあとつくづく思います。